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武楽座『神曲修羅六道』あらすじ
【第五圏】平知盛の章 「智」
祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色 盛者必衰の理をあらはす。修羅道をさらに進むと不思議にも風が変わった。赤い血の海に嵐が吹き荒れる。ダンテを呼び止める声。神功皇后の章で出会った月蜘蛛です。
月蜘蛛「わけあって月蜘蛛として月の門番を任されていた武蔵坊弁慶です。三途の川にて助けられた恩返しのために追いかけてお供に参上しました。源義経殿の臣下で主君を守るために命を賭した者です」ダンテ「頼もしき御事や」その時、海上に亡霊達が現れた。
弁慶(月蜘蛛)「あれに見えるは平家の大将の知盛です。生前は智略に長けた貴公子でしたが、智慧の表裏、修羅道の苦しみや悩みに狂者となってしまったのです」平知盛「桓武天皇から数えて九代目の子孫の平知盛なり」声を手がかりに現れ近づいて来た。
自分(知盛)が、壇ノ浦で沈んだのと同様に、お前も沈めてやろうと、夕波に浮かべた薙刀を取り直し波が巴波の紋を描くほど振り回し辺りを払い、潮を蹴立て、悪風を吹きかけ、眼もくらみ、心も乱れて、前後がわからない状態になってしまった。ダンテは七支刀で切り結ぶも跳ね返され庇おうとした弁慶(#石山裕雅)を知盛の薙刀が深く貫く。武器での攻撃は知盛に効かぬと数珠を揉み、弁慶「東方降三世、南方軍荼利夜叉、西方大威徳、北方金剛夜叉明王、中央大聖不動明王の手にする縛縄で悪霊を呪縛してください」と祈ると、知盛は遠ざかったがなおも知盛が追いすがって来るのを、追い払い祈り退け、知盛は引いてきた波に揺られ流れ、跡知れず波間に消え失せ、跡には白波があるだけとなった。知盛は碇を担ぎ上げ、ダンテに語りかける。知盛「生き身の者よ、すべての時を今のうちにぞ眺めれば、現在の困難を超える叡智もたぎり出るだろう。いずれ汝(なんじ)の都(フィレンツェ)も(京都と同様に)流血の争いとなるだろう。傲慢、嫉妬、貪欲は、人心を焼く三つの火花。我が平家も焔に焼かれ火の花々となって儚く散った。汝が現世に戻ったなら書き記して弔ってほしい」
知盛は、ダンテの未来に訪れる争いの予言を語り教訓を伝え、海に飛び込み壮絶な印象をダンテに与え血の海の深層に消えた。ダンテを庇い知盛に刺された弁慶と、知盛の涙なくして語ることができない死に様に心震えた。智慧や自負という、良いものとされているものが時に悪をなす。自ら命を断つという、私たちの国の常識では罪とされている事が、他の世界の習わしでは自らをいかす道として、美しく輝きもする。罪とは、美徳とは…… ダンテの心は揺さぶられる。
気付くと七支刀の五つ目の「智」の刃が輝いた。